インタビュー
一般財団法人診療看護師等医療従事者支援協会(通称:NupMep)が挑戦するクラウドファンディング「診療看護師奨学金プロジェクト」の期間中に、連続インタビュー企画を開催しています。
クラウドファンディング「診療看護師奨学金プロジェクト」とは、診療看護師を目指す看護師へ返済不要奨学金を提供するためのクラウドファンディングを、2024年12月11日から2025年2月11日まで実施しています。
第1弾は、現在大学院で、診療看護師を目指して勉強中のWさんにインタビューさせていただきました。
看護師経験の豊富なWさんより、医療現場の現状や課題、診療看護師を目指す背景、今後のビジョンなどを伺いました。
Wさん
大学院2年生
青山 竜馬
一般財団法人 診療看護師等医療従事者育成支援協会 理事長
NPO法人 Trio Japan 理事長
山下 実和
一般財団法人 診療看護師等医療従事者育成支援協会
クラウドファンディング担当
山下:まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
Wさん:私は12年間、看護師として勤務してきました。最初の6年半は、心臓血管外科を中心とし、呼吸器外科や婦人科などの診療科が入る術後ICU・循環器内科のCCUで働いていました。後半は心臓血管外科と循環器内科の集中治療室で勤務していました。その中には、先天性心疾患の患児も看護していたため、生まれてすぐの新生児から100歳に近い高齢の患者さんまで幅広く対応していました。
山下:Wさんが看護師になろうと思ったきっかけを教えてください。
Wさん:昔、私の祖母が半身不随で、叔父が介護していました。祖母が入院した際には、私はランドセルを背負って病院へ面会に行っていました。その時、看護師さんたちが、幼い私に対して優しく「来たの?」と接してくれたことからも、医療現場に興味を持ったのだと思います。
また、小学校の頃、仲の良い友達が心臓病で亡くなりました。その時代の医療では助からなかったのですが、その出来事も私に影響を与えたと思います。小学校に入る頃には、看護師になりたいと口にしていたようです。
山下:ありがとうございます。入学前に従事されていた心臓血管外科や集中治療室といった現場は、医療に詳しくない私でも深夜まで働いている過酷な環境をイメージします。自ら志願した配属先だったのでしょうか?
Wさん:はい。もともと救急医療に興味がありましたが、就職先の病院が二次救急の病院だったため、働くなら人間の中心といえる心臓に関われる分野が良いと思い、循環器系の集中治療室を希望しました。希望が通って、その分野で働き始めました。
山下:心臓・循環器系という分野に興味を持たれた背景について教えていただけますか?
Wさん:もともとはテレビの影響かもしれませんが、救急医療に興味がありました。あとは、こどもが好きということもあり、小児科にも興味がありました。また、自分自身で看護大学で学んでいく中で、心臓に関する学びがとても面白いと感じるようになりました。それが心臓への興味を深めたきっかけです。
山下:ありがとうございます。看護師として働く中で、診療看護師を目指そうと思ったきっかけはなんですか?
Wさん:心臓血管外科の先生方はとても少なくて、以前働いていた職場では先生たちが少ない人数で非常に多くの手術をこなしていました。そのため、先生方も多忙で、朝早くから処置を行い、手術が終わらないと次の仕事に進めない日もありました。そのような環境で働いている中で、自分がもっと勉強して、安全に適切な対応ができるようになれば、患者さんへの医療的対応や処置をもっとスムーズに行うことができ、より患者さん中心の医療や看護が提供でき、患者さんの苦痛の緩和や回復の促進につながるのではないかと考えました。そのような対応を自身ができるようになることは、結果として医師の業務負担の軽減にも繋がるのではないかとも考えました。
そのような思いから、診療看護師を目指してみようと考えるようになりました。
山下:大学院に通って診療看護師を目指そうと思われたきっかけを教えてください。
Wさん:より広い視野で色々なことを学び、知識を深め、技術を身に付けられること、患者さんにとってもメリットがあるということからも診療看護師を目指し、大学院で学びたいと考えました。
山下:診療看護師資格以外の選択肢は考えましたか?
Wさん:診療看護師以外にも、高度実践看護師としては専門看護師、他にも認定看護師という選択肢があるのかなと思います。その中で、これまでの自分の働き方や、今学びたいと思っていること、将来の働き方を考えたときに、一番しっくりきたのが診療看護師でした。
山下:診療看護師のどの部分が一番しっくりきたのでしょうか?
Wさん:診療看護師の修学過程では、全区分の特定行為の資格取得のみでなく、医師の包括的指示のもとでの診療の補助として自身で判断できることが増えます。その分責任も大きいですが、患者さん主体の医療をタイムリーに提供できるという側面からはしっくりきたのだと思います。
専門看護師や認定看護師でも特定行為を取得すれば行えることはありますが、診療看護師の特徴は、医師の包括的指示のもとで幅広い業務を行える点だと思います。
山下:医師の治療をフォローするだけでなく、自分自身でも医療行為を行う働き方が理想だとお考えなんですね。
Wさん:そうですね。診療看護師には医師からのタスクシフト業務があると思いますが、患者さんへの関わりを大切にしつつ、医師の視点や知識を活かして業務を行うことが重要だと思っています。さらに、医師からのタスクシフトを受けるだけでなく、看護師としての視点での提案で医療の質を向上させたり、患者さんの満足度を高めたりできればと思います。
医師に近い働き方をイメージする部分もありますが、看護師としての視点を持つことで、患者さんに貢献できる場面が多いと感じています。医師と看護師の役割を組み合わせて、より良い医療を提供できるようにしたいですね。
青山:少し補足させていただいてもいいですか?
アメリカで診療看護師に触れたことがある人たちにとっては、Wさんのお話は共感できる部分が多いと思います。しかし、この日本では特定行為や認定看護師などさまざまな資格がある中で、コンセンサスが取れず、キャリア形成も大変です。
そうした状況の中で、今のような視点を持つことはとても重要です。患者さんに寄り添いながら、医師に薬の処方をお願いしたくても、医師が多忙で電話が繋がらないことがざらにあります。その間、患者さんが苛立ち、看護師が板挟みになるような場面も多いです。こうした現場で裁量を持って働くことは、とても大切だと思います。
裁量をもって働きたいと感じるきっかけとなったエピソードはありますか?
Wさん:日々の勤務の中、お薬に関して言えば、処方をお願いしたい時に医師がいないことが多々ありました。手術中の医師に電話をかけ、自分のアセスメントを基に口頭で状況を伝え、指示をもらうような場面が頻繁にありました。そうした経験を通じて、自分がもっと知識を身につけてステップアップし、現場でより貢献したいと思うようになりました。もちろん、電話での指示よりも、実際に患者さんを診てもらい対応を決めてほしいという思いはあります。それが難しい状況で、自分がその代わりになれる存在になれたらと思いました。特定の出来事というよりも、日々の積み重ねが診療看護師を目指すきっかけになったのだと思います。
山下:直接手を出せないもどかしさが、診療看護師を目指す原動力になったのですね。Wさんのお話から、看護師としての視点を重視されているように感じました。医師の代わりに自分自身でやれることがあればやりたいという思いをもちつつも、患者さんに寄り添いたいという思いが診療看護師という選択に繋がったのですね。
山下:看護師の方々の感覚を知りたいのですが、診療看護師という資格を皆さんはどの程度知っていると思われますか?
Wさん:ここ数年で比較的認知は広がってきています。ただ、やはり名前すら知らない方の方が多いなど、現場にはまだ理解が追いついていない部分があると思います。私が辞める際の直属の上司は診療看護師に特別詳しいわけではありませんでしたが、調べてくださって、「やりたいことなら応援するよ」と言っていただけたので、恵まれていたと思います。ですが、実際には「そんな資格を取る必要があるの?医者のアシスタントになるなんて」といった否定的な意見を言われる方もいるようです。現場の理解が進んでいないことや、病院の方針によって対応が異なる部分もあると感じます。上層部がそうした否定的な思考を持っていると、下にもその影響が広がってしまい、「医者の真似をする看護師はいらない」という風潮になりかねません。
山下:実際に診療看護師になるために大学院で勉強されていると思いますが、通学しての感想や、学びの実感はありますか?
Wさん:正直なところ、まだまだだなと思っています。
大学院での勉強は、本当に基礎の一部に過ぎないと感じます。座学では医学的知識や思考過程など診療看護師としての7つの能力を養うために様々なことを学びます。その中で、「私はもうすぐ2年目を終えようとしているのに、全然自分の中に知識が蓄積されていない・・・」と痛感しています。
実習を通じても同じことを感じます。今まで自分が関わっていなかった診療科での実習ということも関係しているかもしれませんが、自分が目指していた知識や技術の習得には程遠いと感じています。そう考えると、まだスタート地点にも立てていないのかもしれないと感じています。
山下:実習に関しては、2年目にどのくらいの期間おこなうのですか?
Wさん:2年目に入ってから、6月から11月くらいまでの約半年間ですね。その間にいくつかの診療科を回って、実際に医師に付いて学ばせていただきます。
青山:実習の際にお金はもらえるんですか?
Wさん:いえ、全くもらえません。むしろ払っています。
実習では先生について色々教えてもらう形なので、逆に「お支払いさせてください」という気持ちで参加しています(笑)。
青山:えぇ!そうなんですね。
山下:勉強を重ねる中で、特に苦労したことはありますか?
Wさん:私は実家から通っているので、比較的恵まれた環境だと思います。ただ、それでも課題と研究の両方を日々並行してやらないといけないので、時間がとても足りないです。1日がそれで終わるような感覚ですね。
山下:大学院に通っている間は、勉強が忙しいのでアルバイトをする余裕はないと聞いたことがありますが、本当に余裕がないということが分かります。
Wさん:そうですね、私の場合、余裕はありません。貯金を崩して何とかやりくりしている感じです。
ただ、どうしてもお金が必要な方は週末だけ働く回数を決めてアルバイトをしている人もいます。また、看護師として働きながら大学院に通っている人もいます。そのような方々は、授業の合間や長期休暇を利用して働く必要があるので、とても大変だと思います。
山下:Wさんは現在2年生でまもなく修了ですが、就職先についてはどのように考えていますか?また、周りの方々はどのように就職活動を進めているのでしょうか?
Wさん:ほとんどの人が就職先を決めています。診療看護師という働き方も少しずつ広まってきていて、就職先は保証されている環境にはなってきたと思います。ただ、診療看護師になる方々は、自身のビジョンがはっきりしている方も多いので、働き方や職場環境を重視して就職活動をしている印象です。それぞれが自分に合った職場とマッチングできるよう慎重に決めているように思います。
山下:就職活動について、大学院側から何かフォローはあるのでしょうか?
Wさん:私の通っている大学院では、あまりフォローはないかもしれません。卒業生の方が大学に情報を提供してくださり、それがメールで案内されることが何度かありましたが、基本的には個人で動いている感じです。
青山:Wさん、就職先はもう決まっているんですか?
Wさん:いえ、今は結果待ちの状態です。
青山:Wさんのような優秀な方々が苦労されている割には、給料は診療看護師の資格取得前より少しプラスされた程度だと聞きます。本当にこれだけ頑張っているのに、もっと報酬が増えても良いのにと思うのですが、実際どう感じていますか?
Wさん:詳しくは分かりませんが、よく聞くのは「診療看護師の資格取得前と同じくらいの給料だけど、夜勤がない分収入が下がる」という話ですね。
青山:物価や制度が違うので単純に比較できませんが、アメリカでは診療看護師の報酬が充実していると聞きます。診療看護師に関わらず、医療者全般に言えることかもしれませんが。それに比べて日本は、志や情熱でようやく成り立っているような状況に感じます。そんな環境の中でなんで目指したのだろうという動機がすごく気になります。
Wさん:学校に進む時に将来の収入を考えている人もいると思いますが、私はそれをあまり考えずに進んでしまったので、なんとも言えないですね。ただ、医師の働き方も含めて、医療というのは形のない「思い」に支えられて成り立っている部分が大きいと感じています。働いている時も、そういった面を強く意識することがありました。
山下:少し視点を広げてお聞きしますが、診療看護師が医療業界全体に与える影響についてどのように考えていますか?
Wさん:臨床現場で働いていた時、医師の働きぶりを目の当たりにしてきました。朝から晩まで働いている姿を見る中で、診療看護師がタスクシフトを担うことで医師の負担軽減につながると感じています。患者さんに対するファーストタッチを診療看護師が担うことで、医療の質の向上にも寄与できるのではないかと思います。
また、診療看護師がチーム医療の中で果たせる役割も大きいと考えています。他職種と連携し、患者さんのゴールを共有することでチーム医療の質が向上します。ケアとキュアが一体となり、患者さんにより良い医療を提供できることが理想です。そのため、診療看護師が現場で果たせる役割は非常に重要だと思います。
さらに、医学的知識を持った診療看護師が教育をおこなうことで、看護全体の質を上げることができるのではないかと考えています。
青山:ケアとキュアが同時に動くことが大切だというのは、本当にその通りですね。
Wさん:ケアは看護師が行うアプローチで、キュアは医師が行う治療です。この2つが足並みを揃えないと、患者さんに本当に良い医療を届けることはできません。ケアだけでは患者さんは治らないですし、キュアだけで病気が治っても、退院後の生活や患者さんの気持ちに配慮できない。ケアとキュアが足並みを揃えれば、医療はもっと良いものになるのではないかと考えています。
山下:Wさんは、将来診療看護師としてどのように活躍したいと考えていますか?
Wさん:私自身、心臓血管外科や循環器内科での経験が長いので、できれば循環器内科で働きたいと考えています。
その理由としては、心不全など長期的に付き合わなければならない病気を抱えた方が多くいらっしゃるからです。患者さんに対して、看護師の視点を持ちながら、入院時には医療的なサポートを補い、退院後の生活指導や支援を継続的に行いたいです。
特に、集中治療室での経験から、治療を受けている患者さんに看護師の視点で生活指導を行い、病棟が変わる際にも途切れることなく関わりたいと思っています。診療看護師であれば、患者さんに横断的に関わることが可能です。専門看護師や認定看護師も横断的にかかわることは可能ですが、医学的側面からもアプローチできる強みを活かし、ケアとキュアと統合して関わりたいと思っています。
ただ、自分がやりたいことだけでは成り立たないので、組織の中で求められる働き方を理解し、自分のやりたいこととのバランスを取りながら働きたいと思っています。
山下:ありがとうございます。認定看護師さんなどの場合、病棟が変わると関与が難しくなる中で、診療看護師であれば横断的な役割が果たせるという点や、病院側の意向と自分の目指す働き方を調整しながら働きたいという考え、素晴らしいと思います。本日はお忙しい中、ご参加いただきありがとうございました。
Wさん:ありがとうございました!
NupMepは診療看護師を目指す看護師や学生へ返済不要の奨学金提供を開始するため、クラウドファンディングで600万円を募集するプロジェクトを2025年2月11日まで実施しています。
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